「月のしずく」 浅田 次郎著 最近読んだ本
7作からなる短編集。
さえない中年独身男と、金持ちの彼氏と別れたばかりの女が出会う「月のしずく」、
二十年前の恋人を忘れられないまま、何不自由ない生活を与えてくれる夫と生活している妻と、その妻を献身的に愛する夫に奇跡的なできごとが訪れる「聖夜の肖像」、
新聞を配達する高校生が、女に匿われ、ヤクザの世界を垣間見る「銀色の雨」、
忘れ去っていた生まれ故郷である中国を訪れ、過去の記憶を呼び戻す「琉璃想」、
最低最悪なの一日の終わりに、終電を乗り過ごした男女がめぐり会う「花や今宵」、
主人公である金持ちの子供が、ブラジル移民を志す家の使用人ふくちゃんについてみる「ふくちゃんのジャックナイフ」、
幼少の時に自分を捨てて家を出た母を探し出して、ローマで再会する「ピエタ」
なにかと話題みたいなので、ちょうど借りてきて読んだのですが、読んでいくうちに
「あれ?この本前に読んだことあるような・・・・・。」
思い出しました。今から十四年前、車の運転免許更新手続きの待ち時間に読んだことを。
その時はたいして感動もしなかったのを覚えています。
ただの工員とホステスの話か・・・。
その他のお話についても、記憶に残っていないほど薄っぺらな感想しか持たなかったのでしょう。
再度読んでみて、今回は深く心に染みるものがありました。
前に読んだ時は、子供もいなくただただ遊びほうけてたお気楽なお勤め時代。
現在子供を持つようになって環境が変わると、同じ本の内容についても感じ方がこんなにも違ってくるのか。
不動産屋を経営している夫から、女として金銭的にも恵まれ何の不自由もない愛情のある生活を与えられているにもかかわらず、二十年前に無理やり別れさせられた恋人をずっと心に想い、夫へは愛情を感じられずにいる主人公。
そして夫と外出中に偶然再会した昔の恋人に、夫はふたりの時間を持たせてくれようとするが・・・・。
中途半端に無理やり引き裂かれてしまうと、いつまでたっても心に区切りがつけられなくなってしまうものなのでしょうね。
はっきり納得した上での別れなら、二十年も想ったりはしなかったのかも。
主人公の夫の誠実さが哀しい物語でした。
最後の夫婦の愛情には、感動ですね。
この本にある七つの物語は、どれも個性的で、同じ著者が書いたものとは思えませんでした。